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大阪高等裁判所 昭和30年(ラ)1号 決定 1957年12月27日

抗告人 田村寅雄(仮名)

相手方 田村祐子(仮名)

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨並びに理由は原審判中抗告人に対し婚姻生活費の支払を命じた主文第二、三項の部分を取消す相手方の婚姻生活費の請求を棄却する旨の裁判を求め原審判中抗告人に対し婚姻生活費の支払を命じた主文第二、三項の部分について事実誤認の違法があるから不服であるというにある。

よつて按ずるに本件記録中の各証拠を綜合すると相手方は昭和十五年三月抗告人と事実上の婚姻をなし大阪市○○区○○町二丁目○○番地において抗告人並びに同人とその先妻亡たきとの間に生れた子供二人と尚同年五月頃からは抗告人の父田村庄造も加わり同居したが同年五月○○日婚姻届をなし昭和十六年一月○日相手方と抗告人間に長女良子が出生したこと、抗告人は当時○○○製品の製造販売を目的とする○○商事株式会社に勤務し○○○原料買付の事務を担当し出張不在勝であつたが昭和十八年二月同会社の台湾所在の工場に勤務することとなり渡台し戦争も漸次苛烈となつてきたので相手方は同年四月庄造並びに抗告人と先妻間の子供二人及び実子良子と共に庄造の郷里なる三重県○○市に疏開したのであるがその間相手方は厳格な気質の庄造と円満を欠き抗告人とも不仲の間柄であつたが同年八月大阪市内の実家なる母あさも居る兄森元龜一方に良子と共に赴きそのまま同人方で暮し庄造の許に帰らなかつたこと、そこで庄造から抗告人にその旨通知し抗告人は相手方に協議離婚の申出をなしたが拒否せられてそのままとなつたこと。

抗告人は渡台後相手方が○○市の庄造の許にある間はその生活費を庄造宛に送付したが相手方が同家を出た後は同人並びに長女良子の生活費として何等送金するところはなかつたこと、抗告人は昭和二十一年四月台湾から○○市の父庄造の許に帰還し翌二十二年五月頃相手方が良子並びに母あさと同居していた相手方の肩書住居を訪れたが将来のことにつき何等相談することもなく立去つたこと、抗告人は相手方と離婚しようと考え同年八月頃から松本尚子と同棲し昭和二十三年四月頃相手方に対し協議離婚の申出をなしたが相手方においてこれを拒否したのに拘らず同年五月○○日擅に相手方の氏名を冒用して相手方との協議離婚の届出をなし次で同年同月○○日尚子との婚姻届をなし尚同年同月○○日尚子との間に生れた里土の出生届をなしたこと、相手方並びに森元龜一は抗告人並びに尚子を被告として協護離婚の無効確認婚姻取消生活費並びに養育費請求等の訴を大阪地方裁判所に提起し右訴は津地方裁判所に移送せられ同裁判所において右協議離婚の無効確認並びに抗告人と尚子間の婚姻取消の請求は認容せられ生活費並びに養育費の請求は却下せられ抗告人等から控訴したが名古屋高等裁判所で控訴棄却の判決がなされ右判決が確定したこと、相手方は前記の加く昭和十八年八月実家なる兄森元龜一方に帰つて以来現在迄抗告人と別居し昭和二十一年八月以降は相手方の肩書住居に長女良子並びに母あさと同居しその間相手方は会社の事務員をしたり家にあつて手内職をしていたこともあり昭和三十一年五月からは○○○の臨時作業員として勤務し現在に至つており自己に固有の資産はなく前記就労による収入と兄森元龜一からの経済的援助によりその生活を保持してきたものであつて兄森元龜一から昭和二十四年以降現在迄は毎月二千円乃至四千円の生活費の補助がなされてきたものであること、一方抗告人はその固有の資産はなく昭和二十一年四月台湾から帰還後引続き○○商事株式会社に勤務していたが昭和二十六年十二月同会社を退職し○○○のブローカーを始めたが昭和二十七年十二月腎臓結核、並びに膀胱核結を患い大阪○○○病院に入院し翌二十八年三月退院し抗告人の肩書住所で尚子、里士、先妻との間の子、欣一昭和八年生、公男、昭和十一年生、並びに父庄造と同居し静養につとめ十分な働きもできず○○○のブローカーの収入では生活を保持できないため尚子は商店の店員をしたり生命保険会社の外交員として勤め又欣一の病院での貸ラジオによる収入を合せて一家の生計を保持してきたが昭和三十年十一月以来抗告人並びに欣一において○○○○加工業を開業し現在は右営業による毎月三万円位の収入により生活している状態である事実が認められるところで民法第七百五十二条第七百六十条によると夫婦は同居して互に協力し扶助しその資産収入その他一切の事情を考慮して婚姻から生ずる費用を分担すべきものであつて夫と妻の双方が各資産収入を有するときは各その所得に応じて経済的協力として婚姻生活費の一部を分担する義務を負うことになるが夫はその資産収入により妻と子に対し相当な生活をさせる扶助義務を負い妻は家庭にあつて夫と子の世話をすることによつて夫に協力する義務を負うというのが普通にみられる婚姻生活であるがかような場合には夫は扶助義務の履行として子に対する養育費を含め婚姻生活の費用を負担すべきものというべきである。

しかして相手方と抗告人間の協議離婚無効確認、抗告人と尚子との婚姻取消の判決が確定したこと前述のとおりであるから抗告人と相手方は現在婚姻中であり従つて互に同居し協力扶助しなければならないものであり相手方は抗告人等に対し右協議離婚無効確認婚姻取消の請求と共に長女良子の養育費を含め結婚生活費請求の訴を提起し右訴状が抗告人に送達せられたのは昭和二十四年十二月十四日であることが本件記録中の津地方裁判所訟廷事務主任裁判所書記官斎藤孝の回答書により明らかであつてこのとき抗告人に対し婚姻生活費の請求をなしたものというべきであるから前認定の抗告人の相手方双方の収入その他諸般の状況を照し合せると抗告人は相手方に対し相手方が抗告人に対し婚姻生活費の請求をなした日の翌月である昭和二十五年一月一日から昭和二十九年十一月末日迄一ヶ月金千二百五十円の割合による婚姻生活費(長女良子の養育費)合計金七万三千七百五十円並びに両名の婚姻中昭和二十九年十二月一日から長女良子の成年に達する迄の期間中において抗告人が同居するに至る迄毎月金千二百五十円宛を相手方の婚姻生活費として毎月末日限り支払うべき義務あるものと認めてこれが支払を命じた原審判は相当であつてこれを不当と認むべき何等の資料もない。

よつて右金員支払を命じた原審判の部分を失当として非難する本件抗告は理由がないからこれを棄却し抗告費用につき民事訴訟法第八十九条第九十五条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 山口友吉 裁判官 小田常太郎 裁判官 小石寿夫)

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